クリニックの就業規則、本当に「機能」していますか?——問題スタッフへの対応で後悔しないために

就業規則

はじめに

「問題のあるスタッフに辞めてもらいたいのですが、どうすればいいでしょうか」

開業支援とクリニック経営のコンサルティングに長年携わってきた中で、この相談は後を絶ちません。そして相談の多くに、共通する背景があります。就業規則が、クリニックの実態に合った形で整備されていないという点です。

本稿では、クリニックにおける就業規則の実態と、問題スタッフへの対応が難しくなる構造的な理由、そして開業時から取り組むべき労務設計の考え方についてお伝えします。


就業規則の「形式的な整備」と「実質的な機能」は別物です

常時10人以上の労働者を雇用する事業場には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が法律で義務付けられています。しかしクリニックの現場では、この義務を果たしていても「実質的に機能していない」就業規則が少なくありません。

最も多く見られるのが、インターネット上の無料テンプレートや他院の雛形をそのまま、あるいは最小限の修正だけで使用しているケースです。就業規則は、そのクリニック固有の勤務体系、雇用形態、診療時間、休暇の取り扱いなどに即した内容でなければ、実際のトラブル対応の場面で根拠として機能しません。

就業規則が「法的に有効に機能する」ためには、次の三点が揃っている必要があります。

労働基準監督署への届出が完了していること。就業規則の内容が全スタッフに周知されていること。そして、就業規則の内容と実際の運用が一致していること。

この三点のいずれかが欠けていた場合、いざトラブルが発生したときに「就業規則はあるが使えない」という状況に直面することになります。


なぜ「問題スタッフを辞めさせられない」のか——法律の構造を理解する

日本の労働契約法および労働基準法は、雇用される側の保護を強く規定しています。使用者側からの解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効とされます(労働契約法第16条)。

「遅刻が常態化している」「他のスタッフへの対応が問題視されている」「業務態度が改善されない」——これらは院長先生にとって十分な理由に感じられるかもしれませんが、法律の観点からは、それだけでは解雇の正当な根拠として認められないケースがほとんどです。

解雇や懲戒処分を適法に行うためには、以下の要件が求められます。就業規則に懲戒事由と処分の種類が明確に規定されていること。その規定がスタッフに事前に周知されていること。問題行動に対して段階的な指導・警告を行い、その記録が残されていること。

つまり、「問題スタッフを辞めさせられない」という状況の多くは、就業規則の不備と、日常的な労務管理の記録がないことに起因しています。これは院長先生の意志や判断の問題ではなく、制度的な準備の問題です。


実務で見えてきた、クリニック特有のリスク

開業支援の現場で実際に見聞きした事例として、次のようなケースがあります。

採用時に試用期間を設けていたにもかかわらず、就業規則への明記と本採用拒否の要件が整備されていなかったため、問題のある新規採用スタッフへの対応が困難になったケース。慢性的な遅刻と他スタッフへの不適切な言動が続くスタッフに対して、口頭での注意は繰り返していたものの書面での指導記録がなく、懲戒処分に踏み切れなかったケース。パートスタッフと正職員の労働条件の区分けが就業規則上で明確でなく、待遇をめぐるトラブルに発展したケース。

これらに共通するのは、開業時に「とりあえず整備した」就業規則が、クリニックの成長と実態の変化に追いついていなかった点です。


就業規則は「守り」であると同時に「職場づくりの設計図」です

就業規則の本来の役割は、スタッフを縛ることではありません。院長先生とスタッフの双方にとって、働くルールを明確にすることです。

適切に整備された就業規則があることで、問題が起きたときに感情ではなくルールに基づいた対話が可能になります。また、スタッフの側から見ても「何が許されて何が許されないか」が明確であることは、公平な職場環境の基盤となります。

特に開業初期は、最初のスタッフがクリニックの文化と雰囲気を形成する時期です。この時期に労務の設計を丁寧に行うことが、その後の人材定着と経営の安定に直結します。問題が起きてから整備するのではなく、問題が起きにくい仕組みを最初から作ること——これが、院長先生が診療に専念できる環境を守ることにつながります。


まとめ——今の就業規則を、一度見直してみてください

就業規則の見直しは、特別なことではありません。クリニックの実態に合った内容になっているか、スタッフへの周知が適切に行われているか、懲戒事由と手続きが明記されているか——この三点を確認するだけでも、リスクの所在が見えてきます。

当事務所では、クリニックの労務環境の現状把握から就業規則の整備、日常的な労務相談まで、院長先生の経営を労務の側面からサポートしています。「まず話を聞いてみたい」という段階からのご相談も歓迎しています。

現在の就業規則が本当に機能するものかどうか、ぜひ一度ご確認ください。

 

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