クリニックの離職率を半減する方法:ハーズバーグ理論「動機付け要因×衛生要因」の実装ロードマップ

皆さんは、ハーズバーグ理論はご存知でしょうか
クリニック経営での労務管理において、とても役にに立つ考え方ですので参考にしてみてください。
では、
採用が難しい、入ってもすぐ辞める、忙しくて教育に手が回らない——。多くの院長が抱えるこの三重苦は、実は「給料を上げる」だけでは解決しません。
答えはシンプルで実践的。「衛生要因」で不満の火種を消し、「動機付け要因」でやりがいの火を灯すこと。
ハーズバーグ理論をクリニックの現場に落とし込むと、募集が集まり、入職初期の離脱が減り、定着率が上がります。
本記事は、面接設計から入職90日、評価・教育・人間関係まで、院内で今日から回せる具体策を“手順書”としてまとめました。
今日の結論 ― 「衛生要因で不満ゼロ、動機付けでやりがい最大」
ハーズバーグ理論では、
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衛生要因(賃金・労働条件・人間関係・管理体制など)=整っていないと不満が出る。整えると不満は減るが、それだけではやる気は上がりにくい。
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動機付け要因(達成・承認・仕事の意義・責任・成長など)=整えるとやる気が上がる。
順番が重要です。
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まず衛生要因で“離職の地雷”を撤去する。
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次に動機付け要因で“やる気の回路”をつくる。
この順でやると、採用効率と定着率が同時に改善します。
まず整えるべきは衛生要因(離職の“地雷”を撤去する)
1) 賃金・手当・シフトの透明化
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募集段階から総額報酬を明示(基本給/資格手当/時間外/賞与モデル/想定年収レンジ)。
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シフトの確実性:2〜4週先までの確定、前月末提示、変更ルール(同意・代替)を明文化。
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残業ルール:発生要因を絞り、**“10分単位で必ず支給”**を徹底(未払いは離職の最短ルート)。
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早見表:時給×想定シフト=月収の目安をスタッフが自分で確認できる表を共有。
2) 人間関係とハラスメント対策
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窓口を二重化(院長直通+第三者窓口=社労士/外部相談)。
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チームルール(あいさつ・申し送りの型・注意の仕方)を紙1枚で見える化。
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暴言・陰口の定義を就業規則の服務規律で明確化し、指導〜懲戒の流れを説明。
3) 業務量・役割の適正化と標準手順
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役割表(受付・会計・クラーク・処置・在庫・清掃)を明確にし、兼務は最大2領域まで。
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**標準手順(SOP)**を“1タスク=1ページ”で作成(例:初診受付→保険確認→問診票→カルテ登録)。
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在庫・発注の締め時間、日次/週次ルーチンを固定化し、属人化を防止。
4) 就業規則・労務手続きの“穴潰し”
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有休の付与・管理、育休・介護休業、遅刻早退控除、副業可否などを曖昧にしない。
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36協定/変形労働時間制を使う場合は、運用ルール+記録までセットで。
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雇用契約書の現物を必ず手交。口頭合意はトラブルの種。
ここまでの狙い:不満の“起爆剤”を完全に除去。求人レビューでも「条件が明確」「働きやすい」と書かれやすくなり、応募数が上がります。
採用と定着を加速する動機付け要因(“やりがい”の設計)
1) 仕事の意義づけ(患者価値の可視化)
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診療方針の1枚紙:「当院は“○○に困る患者さんの□□を最短で良くする”」を掲示。
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“患者さんの変化”を見える化(例:疼痛NRSの推移、HbA1c改善率、予防接種達成)。
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ありがとうボード:患者の声を週3件掲示、朝礼で1件紹介=スタッフの達成感に直結。
2) 成長実感(教育設計・ミニ評価)
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30タスクの習熟チェックリスト(受付・レセ・処置・滅菌・在庫・感染対策)。
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**週1ミニ評価(10分)**で「出来た/次週の1テーマ」を記録。小刻みな進歩を可視化。
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マイクロ資格(“採血スタンダード”“予防接種コーディネーター”など院内称号)で自尊心UP。
3) 裁量の付与と小さな成功体験
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**“持ち場の工夫”**を月1回提案→**小予算(上限5,000円)**で試行→効果を数値で報告。
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例:問診票の順序入替で平均滞在時間−3分、受付の呼称見直しでクレーム−30%。
4) 承認と公正な評価・キャリアの見取り図
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承認の型:「事実→価値→感謝」(例:「本日の在庫締め17:10完了。診療延長でも乱れなかった。助かった。」)。
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評価は“行動指標”中心(例:申し送りの正確性、標準手順の遵守、改善提案数)。
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キャリアの地図(一般→リーダー→サブマネ→マネ)と昇給レンジを図で掲示。
ここまでの狙い:やる気の源泉を“毎日の仕事”の中に埋め込む。求人広告よりも口コミ・紹介が増えます。
面接〜入職90日のステップバイステップ
採用前(募集文・面接質問の設計)
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募集文の骨子:
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使命(当院が解決したい患者の課題)
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1日の流れ(始業→朝礼→外来→片付け)
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教育の約束(チェックリスト/週1ミニ評価)
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シフト確実性・時間外の扱い
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キャリアの見取り図・評価基準の一部公開
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面接質問(動機付け要因の見極め):
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「最近、職場で自分なりに工夫して改善したことは?」(達成・裁量)
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「感謝された体験は? なぜそれが嬉しかった?」(承認・意義)
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「3ヶ月で習得したいスキルは?」(成長意欲)
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すり合わせ:過去の離職要因(人間関係・通勤・給与)をこちらから先に説明→候補者の反応を見る。
初日〜30日(オンボーディング)
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初日のゴールは“安心”:ロッカー/休憩/トイレ/昼食の流れ/物品場所、誰に聞けば解決するかを明示。
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1日目に1勝:受付の1工程など成功体験を必ず作る。
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週1ミニ評価+15分1on1(「困りごと」「嬉しかったこと」「次週テーマ」)。
31〜60日(役割拡張とフィードバック)
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チェックリストの中級項目へ拡大。
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患者価値の指標(例:滞在時間、苦情ゼロ日数)に関わる小改善を担当。
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中間レビュー:合格点/未達ポイント/支援策を具体例で共有。
61〜90日(正式評価と定着施策)
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行動指標に基づく評価+昇給の可否判断。
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マイクロ資格の認定、次の3ヶ月の学習テーマを合意。
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仲間化の儀式:歓迎メッセージ/写真掲示/役割名の付与(例:在庫リーダー)。
よくある失敗パターンと回避策(チェックリスト付き)
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[ ] 給与・手当の内訳が曖昧 → 募集文・雇用契約書・早見表を一致させる。
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[ ] シフト確定が遅い/直前変更が多い → 前月末確定の原則、変更は本人同意と代替案提示。
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[ ] 口頭指示が多く、標準手順がない → “1タスク=1ページ”SOPを作る。
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[ ] ハラスメント窓口が1本のみ → 外部窓口を追加。
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[ ] 入職初日が放置 → 当日の導線表(誰がどこで何を教えるか)を紙で持つ。
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[ ] 教育が“気合い”頼み → 30項目チェックリスト+週1ミニ評価に落とす。
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[ ] 評価が抽象的 → 行動指標(規律・正確性・改善・貢献)で言語化。
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[ ] 感謝・承認が不足 → 朝礼で1人1コメントor「ありがとうボード」を制度化。
明日から動ける「衛生×動機付け」実装テンプレ
A. 衛生要因ミニ整備(60分)
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雇用契約書の最新版を全員に再交付(PDF化・共有フォルダ格納)。
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シフト確定ルールを書面化(前月末確定/変更手順)。
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残業の丸めを撤廃し、10分単位支給を宣言。
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外部相談窓口(社労士)を掲示。
B. 動機付け要因スイッチON(60分)
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“当院の使命”1枚紙を作成・掲示。
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ありがとうボードの設置(週3件の声)。
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30項目チェックリストのドラフトを用意し、来週から運用。
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週1ミニ評価(10分)を固定スロット化。
C. 90日ロードマップ(配布用ひな型)
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0日:初日導線表
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7日:ミニ評価+1on1
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30日:初回レビュー
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60日:中間レビュー
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90日:正式評価+マイクロ資格認定
具体事例(小規模クリニック)
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医療事務Aさん:入職1ヶ月で退職検討。理由は「何を優先すべきか不明」。→ SOP導入と1日1改善ミッション付与で、2ヶ月目に滞在時間−4分の改善達成。承認が増え、紹介で友人が応募。
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看護師Bさん:前職でハラスメントを経験。→ 外部窓口と定例1on1で安心感を確保。採血マイクロ資格を2ヶ月で取得、達成感が定着に直結。
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受付Cさん:人前が苦手。→ 朝礼での発言は免除し、ありがとうボード管理を担当。陰ながらの貢献が可視化され、評価へ反映。
Q&A(院長がよく聞く質問)
Q. 給与を上げずに定着は上がりますか?
A. 下限を割ると無理ですが、衛生要因の整備+動機付け設計で体感満足度は大きく変わります。待遇改善は“最後の一押し”として効きます。
Q. 忙しくて教育時間が取れません。
A. “1タスク=1ページ”SOPと週1ミニ評価10分に分解すれば回ります。属人化の解消が残業減にも効くため、元が取れます。
Q. ベテランの反発が心配です。
A. 目的と数値効果(クレーム減、滞在時間短縮)を先に共有。小予算の裁量枠でベテランの工夫を評価すれば、むしろ推進役になります。
まとめ
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順序が命:①衛生要因で不満ゼロ化 → ②動機付け要因でやりがい増幅。
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可視化が鍵:条件・手順・評価・使命を“紙1枚”で見える化。
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小さく早く回す:週1ミニ評価、マイクロ資格、1日1改善で“成功体験の連鎖”を作る。
採用難の時代でも、「辞めない組織」は設計できます。院内の仕組みを**地図(SOP・評価指標・90日ロードマップ)**に落とすところから始めましょう。今日の60分で、離職率は必ず変わります。
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