2026年「労働基準法大改正」がクリニック経営に与える影響

2026年労働基準法改正

開業3年目の院長が“今”取り組むべき5つの実務対応

都内23区でクリニックを開業して3年目。
患者数が増え、スタッフ数も定着しつつある――
その一方で、

  • シフトがギリギリ

  • 残業管理が不明確

  • 有給管理が追いついていない

  • 顧問税理士からは「一般的な回答」しか得られない

そんな状態で運営されている院長は少なくありません。

このような状況に追い打ちをかけるように、
2026年に予定されている「労働基準法大改正」 が、クリニック経営にも大きな影響を与える見込みです。

今回の改正は“数十年に一度レベル”と言われ、
従来の働き方・シフト運用・労務管理の仕組みが 根本から見直し対象 となる可能性があります。

特に、
「小規模なクリニックほど影響が強い」 という点が非常に重要です。

本記事では、
クリニック労務に精通した社労士の視点から、

  • 改正の重要ポイント

  • クリニックへの影響

  • 開業3年目の院長が取るべき実務ステップ

  • 対応を怠った場合のリスク

を、分かりやすく・体系的に解説します。


■1.2026年の労働基準法大改正 ― クリニックが押さえるべき5つのポイント

今回の改正案は非常に多岐にわたりますが、クリニック経営にとって特に重要な点を 5つだけ 抽出して整理します。


【ポイント1】連続勤務の上限「13連勤まで」に

現行の法律では、理論上は「24連勤」も可能でした。
しかし改正案では、

14日以上の連続勤務は禁止
→ 最大「13連勤」まで

という方向性が示されています。

●クリニックへの影響

  • 院長自身が“実質無休”で働くケース

  • 看護師や医療事務がシフトの都合で連続勤務に

  • 非常勤スタッフが連続出勤しがち

こうした運用は、今後 法令違反のリスク が高まります。


【ポイント2】勤務間インターバル「11時間以上」

終業から次の始業までに 最低11時間 の休息を確保するという制度です。

●典型的なNG例

  • 夜間診療で21:30まで → 翌朝9:00出勤

  • 月末レセプト業務で遅くなり、翌日は朝イチから勤務

  • 看護師が19:00退勤 → 翌朝7:30準備出勤

いずれもインターバル不足となり、運用改善が求められる可能性があります。


【ポイント3】法定休日の明確化

「週休2日」はただの慣例であり、
“どの日が法定休日か”を明確に定めることが義務化される方向 です。

例:

  • 日曜が法定休日

  • 水曜午後はクリニックの任意休日(法定外)

●注意点
法定休日に勤務した場合は 35%の割増賃金 が必要。
この運用を誤ると、未払い残業として問題化しやすいため注意が必要です。


【ポイント4】有給休暇の賃金計算方法の統一

これまで複数方式が認められていた有給休暇の賃金計算が、「通常賃金方式」へ一本化される可能性 があります。

特に時給制スタッフが多いクリニックでは、有給取得時の支払額が増える ケースが発生します。


【ポイント5】10人未満の「週44時間特例」が廃止へ

現在、従業員が10人未満の事業所は、

週44時間までは「法定労働時間」

として扱う特例があります。

しかし、これが廃止され、

週40時間を超えたら残業扱いに

なる可能性が高まっています。

●クリニックで最も大きな影響

  • スタッフの残業代が増える

  • シフト再構築の必要

  • 人件費の上昇

  • 院長の事務負担増大

「特例だから大丈夫」という考えは、通用しなくなる可能性があります。


■2.なぜ今回の改正は“クリニックほど影響が大きい”のか?

理由は3つあります。


理由1:クリニックの労務管理は「少人数×多職種」で複雑

看護師・医療事務・クラーク・受付・非常勤医など、
少人数で多職種を運営しているため、

  • 誰かが1人休むと回らない

  • シフトが固定化されやすい

  • 連続勤務や休息不足が生じがち

という構造的な問題があります。


理由2:院長自身が「労務総責任者」を兼ねている

特に開業3年目は、

  • 採用

  • シフト管理

  • 有給調整

  • 残業チェック

の多くを「院長の感覚」で運用しているケースがほとんど。

ここに法改正が重なると、
急激に負担が増え、労務トラブルのリスクが跳ね上がります


理由3:顧問税理士は“労務管理の専門家”ではない

税理士は「数字と税務の専門家」です。
しかし、次の領域は社労士の専門分野です。

  • 就業規則

  • 雇用契約

  • 割増賃金

  • シフト設計

  • 労基署対応

  • 労働時間の法解釈

つまり、
税理士の回答だけでは、改正対応として不十分 というのが現実です。


■3.開業3年目の院長が「今すぐ」取り組むべき5つのステップ

ここからは、
“やるべきことの順番” を具体的に整理します。


◆STEP1:現状把握

まずは「数字」と「ルール」の棚卸しです。

●確認すべき項目

  • スタッフの1日・1週間の労働時間

  • 連続勤務日数

  • 勤務間インターバルの実態

  • 法定休日の設定有無

  • 有給の付与・管理・未消化状況

  • 業務委託・非常勤医との契約内容

  • シフトの属人性(誰かがいないと回らない状態)

ここを“見える化”しないと、対応策が立てられません。


◆STEP2:2026年改正を前提にした「収支シミュレーション」

法改正後のシフト・人件費を試算します。

  • 週40時間超の残業代

  • 法定休日勤務の割増

  • 有給休暇の賃金増

  • インターバル確保のための人員増

  • 夜間診療・土曜診療の見直し

ここで、
「今の働き方を続けるとどうなるか?」 が明確になります。


◆STEP3:働き方を“再設計”する

ここがもっとも重要です。

●具体的には

  • 夜間診療の時間短縮

  • 予約枠の効率化

  • 事務作業のDX化・外注化

  • 看護師と事務の役割整理

  • 業務マニュアルの整備

  • 5人→4人で回すためのタスク見直し

生産性を上げる“診療フロー改善” が必須です。


◆STEP4:就業規則・契約書のアップデート

今回の改正では、以下の文言が不可欠になります。

  • 法定休日

  • 勤務間インターバル

  • 連続勤務の制限

  • 副業・兼業のルール

  • 休日・深夜割増の扱い

  • 非常勤医・業務委託者との関係整理

就業規則は「形式だけ」ではなく、クリニックの実情に合わせた“実務で運用できる規則” が必要です。


◆STEP5:勤怠管理システムの強化

改正後は、紙や感覚での勤務管理は危険です。

  • 残業

  • 休憩

  • 休日勤務

  • インターバル

  • シフト実績

  • 打刻漏れ

これらを“自動で判定できる仕組み”にすることが、
法対応+スタッフ定着 の両方に直結します。


■4.対応を怠った場合のリスク

院長が一番知っておくべき「改正に対応しなかった場合」のリスクは次のとおりです。

  • 未払い残業による労基署調査

  • 過去2年分の遡及請求(数百万円単位)

  • スタッフ離職(看護師離職は経営に直撃)

  • 口コミ低下

  • 採用力の低下

  • 院長自身の過労

特に、

“労務で問題を起こすと採用が難しくなる”

これは近年のクリニック経営で非常に重要なポイントです。


■5.まとめ:2026年改正は「クリニックを整える最大のチャンス」

2026年の労働基準法大改正は、
クリニックにとって リスク であるのと同時に、働き方・仕組みを改善する絶好の機会 でもあります。

  • スタッフが辞めない

  • 法令違反の不安がない

  • 人件費の見通しが立つ

  • 院長が診療に集中できる

  • 患者満足度が高まる

こうした“強いクリニック運営”を実現するためにも、
今から準備を進めることが最も効率的で安全 です。

当事務所では、
クリニック労務に特化した以下のサポートを行っています。

  • 就業規則の見直し・作成

  • 労働時間・シフト設計

  • 契約書の整備

  • 勤怠管理システムの導入支援

  • 労働時間シミュレーション

  • スタッフ定着コンサルティング

「うちのクリニックはどこから改善すべきか?」
「今のルールで改正を乗り越えられるのか?」

といったご相談があれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。

院長先生のクリニックが、
2026年以降も安心して“成長し続ける”ためのサポートを全力で行います。

SHIN社会保険労務士・行政書士事務所のサポート

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  • 役員契約書の作成・リーガルチェック
  • 雇用契約から役員契約への切り替え支援
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